FX取引の所得区分 事業所得か雑所得 東京地裁平成23年2月18日判決

1. 判示事項
・一定の経済的行為が、事業所得について規定する所得税法27条1項を受けて定められた同法施行令63条12号の「対価を得て継続的に行なう事業」に該当するか否かは、当該取引のための人的又は物的設備の有無、資金調達の方法、取引に費やした精神的又は肉体的労力の程度、その者の職業や社会的地位などの諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして判断すべきものと解するのが相当として、FX取引は「雑所得」とされた事例。
2. 事案の概要
| ・X(原告)は、訴外A社、B社の代表取締役であった。 |
| ・Xは、役員報酬(給与所得)を得ていた傍らで、FX取引により赤字を計上していた。 |
| ・Xは、平成19年分の所得税につき、FX取引による損失を事業所得として計算し、給与所得の金額と損益通算した上で確定申告をした。 |
| ・Y税務署長は、FX取引による所得は雑所得に該当し、損失は給与所得と損益通算することができないなどとする更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をおこなった。 |
3. 争点
・FX取引は、事業所得か雑所得か。
4. 判旨 棄却
・事業所得該当性について
一定の経済的行為が、事業所得について規定する所得税法27条1項を受けて定められた同法施行令63条12号の「対価を得て継続的に行なう事業」に該当するか否かは、当該取引のための人的又は物的設備の有無、資金調達の方法、取引に費やした精神的又は肉体的労力の程度、その者の職業や社会的地位などの諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして判断すべきものと解するのが相当である。
・本件へのあてはめ
➀ Xは、平成15年8月頃にインターネットにより本件FX取引を開始、②FX取引の多くは、B社の事務所において行われ、特別に人を雇用したり、物的設備を整えたこともなく、情報収集のために格別の経費を支出したり、調査のための特別な機構を持っているといった事情もうかがわれないこと、③FX取引の資金は、Xの自己資金又はB社からの借入金であり、特別な資金調達手段を有しているわけではないこと、④Xは、A社及びB社から役員報酬として1年間に合計3600万円を得て、そこから生活費を支出しており、FX取引による利益は、全て新たな取引の原資に充てられていること、⑤FX取引は、極めて投機性の高い取引であり、長期的に相当程度安定した収益を得る可能性は乏しいといわざるを得ないことなどからすると、FX取引は、社会通念に照らし、「対価を得て継続的に行う事業」であるとは認められないというべきである。
・損益通算について
所得税法は、所得の発生原因又は発生形態によって担税力が異なることを考慮して、所得を区分し、所得の種類ごとに異なる計算方法や課税方法を行うものとしているのであり、事業所得に損益通算を認めながら雑所得には損益通算を認めていないのも、経済活動のうち継続して安定した収益を挙げ得るものに着目し、こうした所得源泉を事業として捉え、その担税力の維持及び確保を図っているものと考えられる。
そうすると、前記のようなFX取引の実態やFX取引の高度の投機性に照らせば、FX取引による所得を事業所得として損益通算の対象とすべき根拠はないというべきである。
・憲法14条(租税公平主義)について
法令等や金融商品取引所独自の厳格な基準を満たした業者を通じて金融商品市場において行われる取引所取引と、そのような基準を満たすことを要しない業者によって店頭において行われる相対取引とを区別し、前者について税制上有利な特例措置(申告分離課税)を定めることにより、FX取引が、厳格な基準を満たした業者を通じ、市場において行われるよう誘導され、その結果として、FX取引に基づく被害の拡大防止や、課税方式の均衡化が図られ得ることを否定することはできない。
そうすると、立法府において、取引所取引について税制上の特例措置を定めたことが、上記のような立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかであるとはいえないというべきである。
5. 参考
所得税法基本通達35-2(業務に係る雑所得の例示) 令和4年10月改正
次に掲げるような所得は、事業所得又は山林所得と認められるものを除き、業務に係る雑所得に該当する。
⑴ 動産(法第 26 条第1項((不動産所得))に規定する船舶及び航空機を除く。)の貸付けによる所得
⑵ 工業所有権の使用料(専用実施権の設定等により一時に受ける対価を含む。)に係る所得
⑶ 温泉を利用する権利の設定による所得
⑷ 原稿、さし絵、作曲、レコードの吹き込み若しくはデザインの報酬、放送謝金、著作権
の使用料又は講演料等に係る所得
⑸ 採石権、鉱業権の貸付けによる所得
⑹ 金銭の貸付けによる所得
⑺ 営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得
⑻ 保有期間が5年以内の山林の伐採又は譲渡による所得
(注)事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。
なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が 300 万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得(資産(山林を除く。)の譲渡から生ずる所得については、譲渡所得又はその他雑所得)に該当することに留意する。
【参考資料】
投稿者プロフィール
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1983年10月生まれ 神戸学院大学大学院法学研究科卒
税理士事務所・税理士法人にて約11年ほど実務経験を積み、令和6年2月独立・開業
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