給与所得or事業所得(確定申告) 東京地裁平成24年9月21日判決

1. 判示事項
・麻酔科医が各病院から得た収入は、給与所得であるとされた事例。
2. 事案の概要
| ・麻酔科医師であるX(原告)は、平成17年~平成19年、麻酔手術等を施行した各病院から収入を得ていた。 |
| ・Xは、訴外医療法人A、訴外医療法人B、訴外医療法人C、訴外医療法人社団D、訴外医療法人E、訴外医療法人F、訴外国立病院機構Gから得た各収入が「事業所得」に該当することを前提として、所得税の確定申告をした。 |
| ・平成17年~平成19年の所得税の納付税額は合計、約1,358万円であった。 |
| ・Y税務署長(被告)は、各病院からの収入がすべて「給与所得」に該当することなどを理由として、納付税額の合計額、約2,650万円とする更正処分、及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。 |
3. 争点
・各病院から得た麻酔科医の収入は給与所得か事業所得か。
4. 判旨 棄却
・事業所得と給与所得との区別の基準
➀事業所得
事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうと解するのが相当である(最高裁昭和56年4月24日判決・参照)。
➁給与所得
給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうと解するのが相当であり、給与所得該当性の判断に当たっては、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかを重視するのが相当である(上記最高裁判決参照)。
そうすると、①経済的活動の内容やその成果等によって変動し得る収益や費用が誰に帰属するか、あるいは費用が収益を上回る場合などのリスクを誰が負担するかという点、②遂行する経済的活動が他者の指揮命令を受けて行うものであるか否かという点、➂経済的活動が何らかの空間的、時間的拘束を受けて行われるものであるか否かという点、などを総合的に考慮して、個別具体的に判断すべきである。
・本件へのあてはめ
➀自己の計算と危険、人的・物的設備の有無について
原告は、術例数が1例であっても2例であっても定額の報酬が支払われ、手術の件数が3例以上に増えたり時間が2時間を超過した場合には、それぞれ割増された報酬が支払われるものの、手術や麻酔施術の難易度や用いる薬剤等の価格などに応じて変動する仕組みにはなっておらず、医療行為等に対する対価として患者や公的医療保険からAに支払われる診療報酬の金額の多寡に応じて原告に対する報酬が変動する報酬体系にはなっていないと認められる。
また、麻酔業務から生ずる費用は、基本的にAが負担しており、原告は、たとえば高額の麻酔機器を購入することによって生じる費用(減価償却費)が麻酔業務から生じる収益を上回るなどして麻酔業務による損益計算が赤字になるというような事業の収支から一般的に生じ得る危険を負担することはない。
➁空間的、時間的な拘束について
原告は麻酔を担当する患者の数、各手術の内容やそれに要する時間、手術や麻酔を施行する場所や患者の入退室予定時間等については、Aによって他律的に決定されていたことが認められ、このような麻酔という業務を行う対象、場所、時間など業務の一般的な態様についてAの指揮命令に服していたものと認められる。
また、Aにおいて他の非常勤職員と同様にこの出勤簿で原告の勤務時間を管理していたことがそれぞれ認められる。
B、C、D、E、F、Gも同様の状況であるから、原告が各病院から得た報酬を給与所得であるとした本件各更正処分等は適法である。
5. 参考条文
・事業所得 所得税法第27条
事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
・給与所得 所得税法第28条
給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。
【参考資料】
税務訴訟資料12043
投稿者プロフィール
-
1983年10月生まれ 神戸学院大学大学院法学研究科卒
税理士事務所・税理士法人にて約11年ほど実務経験を積み、令和6年2月独立・開業
個人事業主・法人の様々な業種を幅広く経験
記帳代行・税務申告及び相談・キャッシュフロー・会社設立支援・経理の内製化支援等、お客様の会社規模やフェーズに合わせて、柔軟な支援が可能です
法令に加えて基本通達や判例を元に、税務・会計の最適解を導き出す
最新の投稿
税金記事2025年11月1日2025年 所得税 年末調整と確定申告(会社員と個人事業主)の仕組み
判例2025年10月27日同族会社に対する無利息融資にかかる利息と寄付金認定(清水惣事件) 大阪高裁昭和53年3月30日判決
お知らせ2025年10月20日事務所移転のお知らせ
判例2025年8月18日収益(益金)の計上時期(クラヴィス事件) 最高裁令和2年7月2日判決

