外れ馬券訴訟 雑所得か一時所得 東京高裁令和2年11月4日判決

1.判示事項

・競馬所得は、通常馬券の的中による払戻金に係るものも「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」とはいえず、一時所得に該当するものと認められるとされた事例。

2. 事案の概要

・X(原告・被控訴人)は、馬券の的中による払戻金に係る所得を得ていた。
・Xは、平成22年~26年の5年間で、合計約2,287万円の利益を上げていた(平成24年のみ約790万円の損失)。
・Xは、平成24年~平成26年までの所得税について、競馬所得を一時所得として確定申告をした。
・Xは、競馬所得が雑所得に該当するとして、外れ馬券を経費に算入して所得税を計算し、更正の請求をした。
・Y税務署長(被告・控訴人)は、いずれの更正の請求についても更正をすべき理由がない旨の通知処分をおこなった。
・Xは、本件各通知処分の取消しを求めた。

3. 争点

・馬券による所得は、一時所得か雑所得か。

4. 判旨

➀事業所得該当性について

 事業所得が事業活動を遂行することで得られる収益に税負担能力を認めた趣旨に照らせば、「営利を目的とする継続的行為」といえるためには、その行為がある程度の期間継続して客観的にみて利益が上がると期待し得る行為であることが必要である

➁本件へのあてはめ

 Xの平成22年以降5年間の利益と損失をみると、平成22年は約584万円、平成23年は約1376万円、平成25年は約516万円、平成26年は約601万円と利益を上げたが、平成24年は約790万円の損失となったことが認められる。

 この内、平成23年の利益額はその他の利益を上げた3年の年間利益額の2倍を超える相当高額なものであったのに対し、平成24年の損失額は、利益を上げた平成22年、平成25年、平成26年の各1年間の利益額より多額のものであった。

 平成24年の回収率は中央競馬の平成24年事業年度の払戻率(馬券の発売金額に対する払戻金額の割合。約75%)を相当程度超える86.4%を維持してはいるが、営利性の存否の判断(客観的にみて利益が上がると期待し得る行為の存否の判断)という観点からは平成24年の損失及びその額は、看過できない否定的な事情と言わざるを得ない

 また、1年間というある程度長期間で集計してもなお約790万円の多額の損失を計上するということは、年間を通じての収支で利益が得られるように馬券の選別が行われる仕組みに大いに疑問を抱かせるものであり、偶然性の影響が減殺されていないことを推認させるものであって、雑所得としての税負担能力を否定する事情といえる

 もっとも、平成24年の損失理由によってはこの損失の事実を除外して評価することも考えられるが、Xは、平成24年の損失理由について、馬券購入態様自体は変更しておらず、過去のデータ分析の結果から将来を予想する手法をとっているため、将来が過去と全く同様とはならない点にあり、その原因は不明であるというのであるから、損失を特別事情として除外して評価することもできない。

 上記のような馬券の購入行為の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等によれば、被控訴人において回収率が総体として100%を超えることが期待し得る独自のノウハウを有していたとまでは認められず、これに基づき馬券を選別して購入を続けていたということはできないので、そのような被控訴人の上記の一連の行為は、客観的にみて営利を目的とするものであったとまではいえない

5. 参考

・雑所得該当性について

 所得税法上、営利を目的とする継続的行為から生じた所得は、一時所得ではなく雑所得に区分されるところ、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である(最高裁平成27年3月10日判決)。

・所得税基本通達34-1(一時所得の例示)

 馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して定めた独自の条件設定と計算式に基づき、又は予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って、偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入するなど、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら多数の馬券を購入し続けることにより、年間を通じての収支で多額の利益を上げ、これらの事実により、回収率が馬券の当該購入行為の期間総体として100%を超えるように馬券を購入し続けてきたことが客観的に明らかな場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する。

【参考資料】

税務訴訟資料

投稿者プロフィール

芳賀 久倫(はが ひさみち)
1983年10月生まれ 神戸学院大学大学院法学研究科卒
税理士事務所・税理士法人にて約11年ほど実務経験を積み、令和6年2月独立・開業
個人事業主・法人の様々な業種を幅広く経験
記帳代行・税務申告及び相談・キャッシュフロー・会社設立支援・経理の内製化支援等、お客様の会社規模やフェーズに合わせて、柔軟な支援が可能です
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