不動産賃貸業における適正な賃貸料(管理料) 最高裁平成6年6月21日判決

1.判示事項
・不動産賃貸業を営む納税者が、同族会社である不動産管理会社から過少な賃貸料しか受け取らないことが、所得税の負担を不当に減少させる結果になるとして、所得税法157条(同族会社等の行為又は計算の否認)の規定が適用され、適正な賃貸料により課税された事例。
2.事案の概要
| ・X(原告・控訴人・上告人)は、土地・建物及び駐車場を所有している。 |
| ・Xは、昭和58年、Xを代表取締役とする訴外有限会社A社を設立した。 |
| ・Xは、物件を「①年額、2,400万円」でA社に賃貸した。 |
| ・Xは、賃貸料収入(不動産所得)と役員報酬(給与所得)から経費を差し引き、確定申告を行った。 |
| ・A社は、物件の管理を受託するとともに、訴外Bに転貸して転貸料収入を得ていた。A社からBへの転貸料は、昭和61年で「②年額、約3,635万円」である。②-①の差額が、実質A社の管理料(利益)となる。 |
| ・②-①の差額は昭和61年で「約1,235万円」、管理料割合は「約33.9%」である(「1,235万円/3,635万円=0.339」)。 |
| ・Y税務署長(被告・被控訴人・被上告人)は、所得税法 157 条を適用し、同業他社が支払っている管理料割合の平均値を算定し、「転貸料の6%(駐車場は9%)」を適正管理料として更正を行った。 |

3.争点
XがA社から受け取っている賃貸料は、適正かどうか。また、適正でなければ、所得税法「157条」にいう「不当」に所得を減少させる結果となると認められる行為又は計算に該当し、適正な賃貸料により課税できるか。
4.判旨 上告棄却
➀所得税法「157条」にいう「不当」に所得を減少させる結果の意義について
所得税法157条は、同族会社が少数の株主等よって支配されているため、税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことにかんがみ、税負担の公平を維持するため、そのような行為や計算が行われた場合にそれを正常な行為や計算に引き直して更正又は決定を行う権限を税務署長に認めるものである。
したがって、あくまで租税負担の公平を図るのが目的であって、租税負担を回避しようとした者に通常以上の税を負担させるといったような制裁的な目的はない。
②適正賃貸料についての判断基準
A社は、Xから物件の管理業務を受託し、これを賃借して賃借料を支払うとともにBに転貸して転貸料収入を得ているというものであり、実質的にはその差額がXからA社への不動産管理の対価(管理料)となっているとみることができる。
したがって、賃貸料が不当に低額であるのかどうかは、管理委託料が適正額かどうかの問題に置き換えることができる。
➂適正な管理料について
適正な管理料割合は、昭和59年~昭和61年については、約6%と判断できる。
④本件へのあてはめ
XがA社から収受した賃貸料とA社が収受する転貸料との差額は、不動産の管理委託に伴う管理料相当額と認められるところ、管理料相当額の転貸料に占める割合(約30%)と一般に不動産賃貸業者が同族関係にない不動産管理会社に管理を委託した場合の管理料の賃貸料に占める割合(約6%)との間に著しいかい離がある。
つまり、経済人の行為としては、極めて不自然・不合理であることは明白であって、他にXがA社に対して高額な管理料相当額を支払うことに何ら合理的な理由はないと認められるので、所得税法157条の適用があるとした本判決の判断は相当と首肯できる。したがって、Xの行為はA 社を介在させることによって所得を分散し、所得税の負担を不当に減少させる結果になると認められよう。
➄結論
Xが、A社から過少な賃貸料しか受け取らないことにより、その所得税の負担を不当に減少させる結果となっており、本件において、所得税法157条の規定を適用したことが違法であるとは到底解されない。
そして、Yの更正にかかるXの総所得金額及び納付すべき税額は、いずれも適正賃貸料の額に基づく総所得金額及び納付すべき税額の範囲内であるから、本件更正は適法であり、これに基づく過少申告加算税賦課決定も適法である。
【参考資料】
訟月41巻6号1539頁
最高裁第三小法廷平成五年(行ツ)第七四号
投稿者プロフィール
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1983年10月生まれ 神戸学院大学大学院法学研究科卒
税理士事務所・税理士法人にて約11年ほど実務経験を積み、令和6年2月独立・開業
個人事業主・法人の様々な業種を幅広く経験
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