ホステス報酬 給与所得か事業所得 東京地裁 令和2年9月1日判決

1. 判示事項

・キャストは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供をしていたということができるから、キャストへの支給額は、所得税法28条1項に規定する給与等に該当するものと認められるとされた事例。

2. 事案の概要

・X社(原告)は、スナック及びクラブの経営等を目的とする株式会社を平成21年に設立した。
・X社は、キャストへの支払額を事業所得として源泉所得税を計算し納付していた(日払のキャストへは源泉徴収なし)。
・X社の売上は、現金又はクレジットカードとされており、客に対する売掛けが発生することはなかった。
・キャストは、X社において接客業務をして得た報酬を事業所得として確定申告をしていた。
・Y税務署長(被告)はキャストへの支払額が給与所得に該当するとして、不納付加算税並びに重加算税の賦課決定処分、消費税等に係る重加算税の賦課決定処分をおこなった。

3. 争点

・キャストへの支給額は、給与所得か事業所得か。

4. 判旨 棄却

・事業所得と給与所得の意義

 事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいう

 これに対し、給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうものであって、給与所得については、取り分け、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない(最高裁昭和56年4月24日判決)。

・本件へのあてはめ

 店長とキャストの間で、週の出勤日数や曜日について事前に取り決めをし、店長が作成したシフトに従って勤務することが前提になっており、客が来ないと判断した場合に帰らせることがあるなどの指示を受けている。

 加えて、キャストは、無断欠勤等により罰金を科されることがあり、他のキャバクラ店での勤務も禁止されていることからすれば、X社の指揮命令に服して空間的、時間的拘束を受けていたといえる

 さらに、キャストは、あらかじめ決められた勤務1時間当たりの支給額に、各種手当の額を加算した額の支給を受けており、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供をし、その対価として金員の支給を受けていたものといえる

 そして、キャストは採用後間もない期間においては勤務時間に応じた一定額の支給が保証されていたこと、各店舗における飲食料金等の支払方法は原則として現金又はクレジットカードによるとされており、キャストが客に対する売掛金を回収する責任を負うことはなかったことからすれば、自己の計算と危険において労務又は役務の提供をしていたということはできない

・租税法律主義について

 所得税法204条1項6号、2項1号によれば、ホステスの業務に関する報酬についても、同法28条1項に規定する給与等に該当することがあり得るのは明らかである。

 したがって、所得税法204条1項6号の「ホステス」についてみだりに規定の文言を離れて解釈するものではなく、課税要件明確主義に反するといえない。また、ホステスへ支払われた金銭を給与と認定することが租税法律主義に反するともいえない。

 以上によれば、キャストは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供をしていたということができるから、キャストへの支給額は、所得税法28条1項に規定する給与等に該当するものと認められる

5. 参考条文

・所得税法28条1項

給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう。

【参考資料】

税務訴訟資料 第270号-83(順号13443)

投稿者プロフィール

芳賀 久倫(はが ひさみち)
1983年10月生まれ 神戸学院大学大学院法学研究科卒
税理士事務所・税理士法人にて約11年ほど実務経験を積み、令和6年2月独立・開業
個人事業主・法人の様々な業種を幅広く経験
記帳代行・税務申告及び相談・キャッシュフロー・会社設立支援・経理の内製化支援等、お客様の会社規模やフェーズに合わせて、柔軟な支援が可能です
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